小話連作 Archive

黒と白

どうしても譲れない大切なモノを守る為───。
ケンカの理由としては上出来じゃね?
そう思ったから、何のためにって聞かれた時素直に答えた。
「俺のルールを守る為だ」
うわ?コレってめっちゃ俺キマったんじゃね?
・・・って、誰にアピールしてんだよ!

「つうわけでー、銀さんやむにやまれぬ事情で怪我しちゃったから、明日の屋根修理のお仕事はー、新八よろしくぅ❤」

「なにが”つうわけ”なんですか?!まったく事情わかんねぇだろうが!何やってんだよ?!あんた!」

病院から戻った銀時は、三角巾で腕を吊るし、2・3日はあまり動かせないことをアピールし、かったるい肉体労働は明日以降は別の奴が来ると告げて、使えねぇとかなんとか文句を言う親方を無視して早引きして来た。
まんまとそのかったるい肉体労働を新八に押し付けることもでき、銀時の機嫌は悪くなかった。

まだそれほど暖かくもないのに、よりによって吹きっさらしの屋根の上での肉体労働なんて、甘いモンでもなければやってられねぇよ───と心の中でケッと吐き出す。そんな肉体労働は若い者がやればいいのだ。

(ま、別に銀さんだってまだ若いけどさ!)

フォローは忘れない。

次の日ぶつくさ言う新八を送り出し、珍しく別口の仕事の依頼で神楽も出払い、ちょうど良く一人になった処で傷口のガーゼを取り替えるべく包帯をはずす。
刀傷だとバレたら、ガキ共がうるさいので調度良かった。

「お前が刀傷を負うとは、ぬるま湯生活で鈍ったのか?とんだ油断をしたものだな」

「別に油断したわけじゃねェよ。つか天井から入ってくんの止めてくんねぇ?」

突然かけられた声に顔も上げずに答える。
昨日の今日で耳聡いというか、また勧誘にでも来たのだろう。
天井の隅に忍者よろしく張り付いていた長髪(寒くてもやっぱりうっとうしい事だ)の男がストンと部屋に降り立つ。
そう、別に油断したつもりはなかった。
相手に本気の気魄を感じたし、なかなかヤルと思ったし。
しかしあそこであの変化はちょっと予想外だった。
道場剣術ではない、実践剣術…というよりむしろ喧嘩剣術とでも言えばいいのか?とにかくあの変化の仕方は面白いと思い、思わず剣を抜き、真剣に相手をしてしまった。

(そういやあん時も迷いのないいい突きかましてくれたっけ・・・)

初対面の池田やでの事を思い出すとムカムカとした。
男の顔なんてまず覚えない銀時にしては珍しく覚えてたのは、あの初対面があまりにも強烈だったからだろう。

(大体にして、あいつらヅラをとっ捕まえにきたクセに、なんでいきなり俺にかかってきたんだ?普通に考えたらまずはヅラにかかってくだろうが?天パだからか?そんなに天パがいけねぇのか?)

「おい銀時?ちゃんと人の話を聞いてるのか?!」

「あー何?聞いてるわけねぇだろ」

思い出してる間ヅラがずうっとなにか喋ってたようだが、どうせ勧誘か何かだろうと思いついついスルースキルを発動していたらしい銀時は、悪びれもせず答える。

「大体貴様は昔から・・・」

「なあ、ところであいつ誰?」

くどくどと説教グセのある桂が銀時は苦手だったが、すぐに追い出さなかったのは、こちらから探そうと思っていたからだった。
たしかに思い返せばあの制服は時々街中で見かけてた気はする。するが、どうでも良かったので気にも留めていなかった。
武装警察なんて存在にも興味がなかったので、真選組なんてものもどこかで耳にしていたかもしれないが記憶にも残っていなかった。
しかし立て続けに斬りかかられたり決闘するハメになったりで、いやおうなく認識してしまったどころか、あの瞳孔おっぴろげのチンピラ警官にはちょっと興味が沸いてしまった。
昨日の今日で勧誘に来るからには誰とやり合ったかなんて、この旧友は先刻承知なハズだろう。

(別に黒髪サラサラストレートが羨ましいとか、ぽかーんとした顔が予想外に可愛かったとか、絶対そんなんじゃねぇけどな!)

「武装警察───隊内からも隊外からも恐れられる、真選組鬼の副長土方十四郎」

「鬼?副長?アレが?」

真選組が池田屋に乗り込んできた時の事を思い返しても、ごつくて体格が良くて公務員というよりはむしろヤクザみたいな奴ばかりだった。どちらかというと細身で優男風の(たしかに目つきは悪いはチンピラくさいはではあったが)あの男が副長というのは以外や以外。

「二ヶ月ほど前に一斉摘発された過激派の攘夷グループがあってな。そこそこの勢力だったし、なかなか腕っ節のいい奴もそろっていたが、1/3はその場で斬られ壊滅した。その生き残りがいてな、”羅刹”のようだったと言っていた」

「羅刹?」

「全身黒尽くめで目だけが赤く光り、うっすらと笑いながら次々と仲間が斬られるのを、隠れた物陰から怯えながら見ていたそうだ」

「いや、あいつ目ぇ赤くねぇだろ」

「返り血とか照明が反射して偶々そう見えたのだろう。捕まえた奴への拷問も熾烈を極めるとかで、隊内でも土方が拷問してる部屋には近づかないという噂だ」

(ふーん・・・そんな風には見えなかったけどねぇ。どっちかってーと甘そうなカンジもしたけどなぁ)

「侍ともいえない出自もわからん田舎物の集団ながら、組織として纏め上げている手腕はたしかに  賞賛できる。だが、所詮は猿マネの似非侍ゴッコ───」

「あースットプストップ。もうお前帰っていいわ、むしろ帰ってください。指名手配犯とかに出入りされちゃ迷惑だからね。こちとら善良な一般人やってっからさ。」

「おい銀時…!人の話を…」

まだ話の途中だぞと!と言い募る桂を無理やり窓から突き落とす。ヒドイようだがこれくらいで怪我などするようなタマじゃない。

(玄関から追い出して誰かに通報される方がやばいからね、うん)

そう言い訳して一人納得すると、仕事机に座り飲みかけですっかり温くなったいちご牛乳の残りを一気にあおる。

「鬼ねぇ・・・ちょっと面白れぇんじゃね?」

その昔白い鬼と呼ばれた男はひっそりと笑った。

今日もいい天気

一般市民と同じように、この隊服というか、その属する組織に嫌悪感を持ってるのだと思っていた。
武装警察真選組。
対テロリスト用特殊部隊として江戸の人々の安全を守る為に発足された幕閣の末端に連なる組織だが、守るべき江戸の人々からの評判はあまりよろしくない。
やり方が荒っぽいとか、見た目がチンピラくさいとか、主な標的である攘夷志士への同情とか、天人に牛耳られてる幕府への反感とか、単純に権力への反感とか、まあいろいろな要素があいまって、ハッキリ言ってあまり好かれてはいない。
ましてやおそらく元は攘夷志士だったのだろう。
今は活動してる様子はないが、桂や高杉なんかとも顔見知りじゃないかと推測される人物だ。
嫌悪感を感じるのは当然だろうと思う。
いや、そう思っていた。
だが、どうやらそういうこだわりは無いらしと最近気が付いた。
酔いつぶれた近藤さんを引き取りに来てくれと連絡を受け赴いたスナックで、一緒に飲んでたらしいあいつと出くわす事は一度や二度じゃなかった。
見回りパトロール中に総悟にまかれ、見つけ出したら団子屋の店先で、団子を一緒に食べながら楽しげに会話してたなんて事もザラにある。
山崎も「そいや今日旦那にあって・・・」などと何やかんや言ってるから、会えば世間話やら情報交換(流行の店だのなんだののくだらねぇ情報だが)してるらしい。
どころか一般の隊士連中ですら、道で会うと気軽に挨拶を交わしている。

(つまりは、あいつの嫌悪してる対象は真選組じゃなくて俺個人限定ってことだよな…)

そう結論付けて、深く吸った煙を空に向けてふうっと吐き出す。
かぶき町内にある緑化公園は平日の昼間だというのに、親子連れやら若いカップルで賑わってる。
青と緑のコントラストが鮮やかな平和な風景の中、不釣合いなくらい剣呑な空気を纏わせて木陰のベンチを柄の悪いチンピラの如く占領している黒尽くめの男───真選組鬼の副長こと土方は、同じ黒でもいつもの洋装の隊服ではなく黒の着流しを着ている。つまりは、非番を持て余していた。
バカが付くほどの仕事人間の土方は、特にコレといった趣味もないので(気が向けば映画館に足を運んだりもするが趣味という程ではない)、非番になると特にすることもなくブラブラするくらいしかない。
しかしブラブラしてると何故か行く先々で出くわすのだ。
顔を合わすたびに眉間にシワを寄せ、いちいち喧嘩を売ってくる銀髪に。
非番だというのに、かえって疲れるという事が何回か続いた結果、こうやって公園でボーっと過ごす事が増えた。
特に何かをするわけでもなく只ボーっとしてるものだから、埒も明かないことをやたらと考える時間が増えた。増えた結果、思考の半分くらいがあの銀髪の事だというのが土方にとっては腹立たしいことだった。
腹立たしいのにまたつらつらと考えてしまうという悪循環だ。

(まあ嫌われんのは慣れっこだがな・・・)

むしろ好かれる事の方が稀なのだ。
そう考えると近藤さんやみつばはかなりの奇跡なんだと思う。
こんな誰からも嫌われるような自分に好意を持って接してくれるなんてよっぽど心が広いのだ。

(それに比べるとあのヤローは大人気ねぇんだよ!)

(嫌いならば無視すればいいだけじゃねぇか)

いちいちつっかかってくんのだって疲れるだけだろうと思うのに、何故か毎度毎度喧嘩になってしまう。
土方も売られた喧嘩は捨て置けないタイプなので、つい買ってしまう。
それの繰り返し。
そりゃあ初対面と二度目と、いきなり斬りかかられて、いい印象を持つ馬鹿は居ないだろうが、その時の対応は立派な大人のものだったから、まさか根にもたれるとは思わなかった。
それとも単に生理的につい反応してしまうって奴なんだろうか?
たとえばゴキブリを見つけると何をされたわけでもなく殺虫剤を噴きつけてしまうように、反射的なものなのかもしれない。

(生理的な嫌悪ってどんだけだよ?!)

その日暮らしのマダオみてぇな生活してるクセして人望があるらしく、飲み屋の主人やら団子屋や定食屋の親父やらにも顔が利く。
いっつも引っ付いてるチャイナ娘やめがねにも懐かれてる。
そういや人見知りが激しく警戒心の強い総悟があれだけ気安くしてるってのも珍しい。
そんな相手は姉であるみつばと近藤さんくらいしか土方は知らない。
そんだけ懐が深い奴なのだろう。
なのに・・・。

(そんな奴に生理的嫌悪をもたれる俺ってどんだけだよ?)

いや別に慣れてるけどな───と、また最初の思考に戻る。それの繰り返し。
嫌われてるのには慣れてるし、別に誰に嫌われたってどうでもいい事なのに、なんでその嫌われてる相手の事をこんなに考えてしまうのか?
それは答えを出してはいけないような気がするのに、どうしてか考えることを止められなかった。

「あー…空が高ぇなー・・・」

そうつぶやいて、土方は短くなったタバコを深く吸い込んだ。

ホーム > 原作 | TEXT | 銀魂 > 小話連作

最近の投稿

| top | about | 銀魂 | ONE PIECE | 動画 | blog | bkm |

▲ page top